墨灸~家伝灸~

墨灸

おはようございます。
大阪泉佐野市の縁里庵かつもと鍼灸院です。
今日は墨灸という灸法をご紹介します。
鍼灸師や鍼灸学生向けの記事になります。
墨灸は小児に使う事が有名ではありますが
隔物灸として大人に使う鍼灸院もあります。
隔物灸はしょうが灸塩灸にんにく灸が有名ですが
附子灸もあったりします。
家伝灸というのは配合が秘密で一子相伝になる事が多く
マネが出来ずらい灸法で消えていった灸法も多くあります。
家伝灸の1つ平地のにんにく灸を再現するために作ってみましたが

今回は墨灸の作り方を教えて頂いたので、実際に作ってみようと思います。

目次

墨灸とは

墨灸は百済から日本に伝えられ、滋賀県で根付いたものといわれています。
その繁盛ぶりを伝える史料は、「東邦医学」誌の主幹であった駒井一雄氏の実家「あなむら診療所」
に残っています。駒井先生は昭和2年に京都府立医科大学を卒業後、実家を継ぎ、西洋医学ではなく鍼灸のみで施術
をされました。県内はもとより、京阪神や中部地区からも患者がつめかけたという。
墨灸の通称は「もんもん」です。
当時のこの地方では子供時代は誰でも受ける施術でした。
墨と漢方薬を混ぜて、小児の経穴に添付する方法です。
灸治ではありますが、火を用いないので熱さも痛みもないので、小児も嫌がることもありません。
墨灸の適応症は夜泣きやカンムシです。
その他に下痢や咳、夜尿症などにも効果的で、小児はりと併用もさらに効果を高めると言われています。
皮膚が敏感の方がよく効くが、敏感過ぎて皮膚に炎症等の症状が強く出現するときは
親が不安感を覚えるので中止する場合があるとの事です。

家伝灸は各施術者で配合している生薬や量が違います。
墨灸と言っても各施術者で内容が違います。
今回の記事では何種類かの作り方
をご紹介しますね。

墨灸の作り方

墨灸

鍼灸OSAKA「効かせる鍼灸の技」の墨灸の作り方から引用

井出健先生の作り方

墨灸

墨(摺ったもの)、ヨモギ原末・樟脳(しょうのう)、麝香(じゃこう)、餅粉

樟脳とは:クスノキ科で日本の関東以西から台湾、中国南部まで分布する常緑の高木です。人形や衣服の防虫剤、花火の添加剤としても使用されています。精油成分には病害虫の忌避作用があり1000年以上の樹齢のものも見られることから、神聖な木として神社の境内に植えられます。過去、強心剤として用いられたことから、だめになりかけたものを回復させる措置や政策などを「カンフル剤」と表現されます。生薬「樟脳」は、クスノキの葉、枝から得られたものです。d-カンフル(モノテルペンケトン)などの成分を含み、強心作用、局所刺激作用などがあり、また皮膚病外用薬として用いられます。

引用元:武田薬品工業株式会社

麝香とは:ジャコウジカ又はその他近縁動物の雄のジャコウ腺分泌物を乾燥した物です。ジャコウジカは哺乳動物、反芻亜目、シカ科の動物でヒマラヤの山岳地帯から中国の西蔵、西康、雲南、貴州、四川、甘粛、陝西、山西に及びます。ジャコウジカの雄は体長約1mで、肩の高さが約70cm全身は帯灰かっ色の長毛で覆われ、二条の白斑が頭部から脚部に流れています。耳は大きく直立して、上あごの犬歯は長く外下方に突出して内方に湾曲しています。腹部の正中線と臍部と陰茎との間にある袋状の分泌腺が麝香で、晩秋から初冬の交尾期に分泌液で満たされます。麝香の香気成分はムスコンといわれる環状ケトン体でありますが、これが有効成分とは考えられていません。

引用元:成光薬品工業株式会社
墨灸

墨灸を塗って頂きました。
大人向けで樟脳を多めにしたので
少しピリピリとしています。

駒井一雄先生の墨灸の作り方

黄柏(おうばく)18.75g、竜脳(りゅうのう)7.5g、麝香3.75g、樟脳3.75g、適量の艾
適応は6~7才まで

黄柏(黄檗):ミカン科キハダの周皮を除いた樹皮

引用元:クラシエの漢方

竜脳:天然の竜脳は熱帯アジアに分布するフタバガキ科の常緑高木、リュウノウジュの樹脂を加工したものを用いる。幹や枝の切り口や揉んだ葉には樟脳に似た強い芳香がある。ときには幹の割れ目の中に自然に結晶ができていることがある。人工的には幹や枝を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華させ、冷却すると結晶が得られる。これが竜脳である、竜脳香ともいわれる。

引用元:漢方薬の通信販売中屋彦十郎

清水厳先生、森秀太郎先生の墨灸の作り方

鍼灸OSAKA「灸法再考」から引用

水1合に黄柏5匁を入れて5勺になるまで煎じ、これに和墨を入れて濃液とし
さらに麝香1匁、竜脳2匁、米の粉2匁を混じて皮膚に塗布して上に灸する。
あるいは麝香1匁、煤煙適宜、ヒマシ油適宜、竜脳1匁を混和してモグサに浸して
大豆大に丸めて皮膚に置き、その上に灸をする。

1匁は3.75g、5勺は90.1953ml

煤煙:(石炭など)燃料を燃やして出るすすと煙。

猪飼祥夫先生の墨灸の作り方

墨灸

白朮(びゃくじゅつ)4g、茯苓(ぶくりょう)4g、川芎(せんきゅう)3g、釣藤鈎(ちょうとうこう)3g、当帰(とうき)3g、柴胡(さいこ)2g、甘草(かんぞう)2g、黄柏(おうばく)2g、竜脳(りゅうのう)1g

抑肝散+黄柏と竜脳が入ったのが猪飼先生の墨灸です。
抑肝散は小児のかんむしの処方になるので、使用しているとのことです。
適応は3か月から10歳まで

白朮:キク科オケラの根茎またはオオバナオケラの根茎

引用元:クラシエの漢方

茯苓:アカマツやクロマツを伐採した後、数年を経て枯れた切り株の周囲の土中、深さ10~30cm位の所の根に付着形成する。この菌核を薬用とする。

引用元:日本漢方生薬製剤協会

川芎:セリ科センキュウの根茎

引用元:漢方ライフ

釣藤鈎:アカネ科カギカズラ

引用元:漢方294処方生薬解説

当帰:せり科トウキまたはホッカイトウキの根を通例、湯通ししたもの

引用元:漢方294処方生薬解説

柴胡:せり科ミシマサイコの根

引用元:漢方294処方生薬解説

甘草:マメ科Glycyrrhiza uralensis Fischer又は Glycyrrhiza glabra Linné (Leguminosae マメ科)の根及びストロンで,ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)

引用元:漢方294処方生薬解説

今回は猪飼先生の墨灸を作ってみようと思います。

墨灸作り

墨灸作りでは猪飼先生の作り方をご紹介しています。

STEP
墨灸の作り方は生薬を薬研に入れてすり潰します。
薬研と墨灸
墨灸

今回は岸和田の母校の学生さんにも手伝っていただきました。
薬研で作りましたがなかなか粉にならず
結局ミキサーで作りました。

墨灸
STEP
墨を磨る(墨汁でも良いが磨る方が粘りもあり、墨灸が身体につきやすい)
墨を磨る

メルカリで購入しましたが小さく失敗しました。
今回は市販の墨汁も使って製作してみました。

STEP
磨り潰した処方薬を艾と混ぜる

モグサは良質なモグサを使い薬物と半々で作ります。
写真は墨汁の墨灸です。

墨灸
STEP
モグサと混ぜた処方薬に墨を滴す

この状態で2週間ほど保存しておくと、薬物が抽出されて使用可能になります。
何度も使っていると薬物の匂いが衰えてきてその時は作り直す必要があります。
墨灸は常温保存でも大丈夫との事です。


実際この工程は近々行いますので
写真などはその時に追加させていただきます。

墨灸の施術方法

墨灸

子供が楽しく施術を受けられるように、環境を整えておく
子供を押さえつけたり、泣かせたりして施術を行わないこと。
墨灸を筆につけて、身体の経穴に塗っていく。健康維持、精神安定のために、手の陽明大腸経
足の陽明胃経、足の大腸膀胱経、督脈、任脈を用いて調整する。
墨灸の色が服につくと取れにくいので、ベビーパウダーを付けると良い。
ベビーパウダーは猪飼先生の発案です。

施術後は明日までお風呂に入らないで、薬成分が落ちないようにする方が良い
墨灸は3か月の乳児から10歳くらいの子供が対象である。
10歳を超えると皮膚が大人の皮膚に変わってくるので、薬の成分が皮膚から吸収しずらくなる可能性がある。

岡山県では家伝灸として墨灸(隔物灸)として大人にも使っています。
作り方は秘伝(非公開)ですが
ショウガ灸のような形にし、その上にモグサを乗せ施術を行っていたそうです。

生姜灸/泉佐野市の縁里庵かつもと鍼灸院

今流行りの紫雲膏灸のような使用方法だったのかもしれませんね。
上記でご紹介した森先生と清水先生の大豆大に丸めて使用する
を代用できるかもしれません。

墨灸は味噌灸ショウガ灸ニンニク灸に比べて
経験することが少ない家伝灸の1つになりますが
このまま時代と共に消えていくのか
鍼灸師が施術を行わなくても知識として残していく事は大切だと思います。

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